
うなぎと参鶏湯、似て非なる暑気払い。日韓の”精をつける”思想を比べる

夏になると、日本ではうなぎ、韓国では参鶏湯を食べる。どちらも「暑さに負けないための一品」として知られているが、その発想の出発点はまったく違う。しかも韓国にもうなぎを食べる文化があり、その調理法は日本とは異なる進化を遂げてきた。同じ「暑気払い」という行為の奥にある、日韓それぞれの食への向き合い方をたどる。
なぜ韓国は「熱いもの」を、日本は「涼」を選ぶのか
韓国の夏の暑気払いを象徴するのが参鶏湯だ。丸鶏に高麗人参、もち米、ナツメ、ニンニクなどを詰めて長時間煮込んだ、熱々のスープ料理である。真夏の炎天下で熱いスープを食べて汗をかき、体内の熱を外に出す「以熱治熱(熱を以て熱を治す)」という発想がその根底にある。
一方の日本は、うなぎの蒲焼きこそ精のつく食材として選ばれるが、夏の食卓全体を見渡すと、そうめん、冷やし中華、うなぎの蒲焼きなど”冷たいもの・さっぱりしたもの”で涼を取る文化が主流だ。同じ「暑さに負けない」という目的でも、韓国は食べ方の思想(熱で熱を制す)に軸足があり、日本は特定の食材(うなぎという滋養食)に軸足がある。この非対称性が、両国の夏の食卓を比べる出発点になる。
参鶏湯が「国民食」になるまでの意外と新しい歴史

参鶏湯の背景にあるのは、朝鮮時代から続く「三伏(サムボク)」という暦の思想だ。夏至から数えて三番目の庚(かのえ)の日を初伏、四番目を中伏、立秋後最初の庚の日を末伏と呼び、この三日間を合わせて三伏という。中国・秦代の記録にまで遡るとされ、朝鮮王朝の宮中では三伏になると重臣に氷や肉を分け与えて暑さを乗り切らせる習わしがあったという。
ただし、現在私たちが知る「参鶏湯」という料理自体は、それほど古いものではない。朝鮮時代に食べられていたのは高麗人参の入らない鶏の水炊き(タッペクスク)で、高麗人参が庶民にも普及したのは1900年代以降のことだ。「参鶏湯」という名の外食メニューとして登場したのは1950年代以降、1960年代には「鶏参湯」とも呼ばれ、1970年代半ば以降にようやく夏の定番外食として定着したとされる。つまり参鶏湯は、数千年続く「三伏」という暦の思想と、20世紀に入ってから形になった料理が組み合わさって生まれた、比較的新しい”伝統”なのである。
うなぎは韓国にもある。ただし発想がまったく違う
うなぎ好きの日本人が意外と知らないのが、韓国にも豊かなうなぎ食文化があるという事実だ。中でも知られるのが、全羅北道・高昌(コチャン)の「プンチョンチャンオ(風川長魚)」。海水と淡水が交わる汽水域で育つうなぎで、身が締まっていることで知られる。
調理法は大きく分けて二つ。塩だけで焼く「ソグムグイ」と、コチュジャンをベースにした甘辛いタレを塗って焼く「ヤンニョムグイ」だ。韓国では炭火で直火焼きにするのが一般的で、日本の関東風のように一度蒸してから焼く工程は基本的に踏まない。この「蒸さずに直火で焼き切る」スタイルは、脂の乗ったうなぎの香ばしさをより前面に出す食べ方だと言える。
薬味として添えられるのが、生姜やニラ。脂の強さを生姜の辛味で切る、あるいはニラで香りを足すという発想は、コチュジャンの甘辛さを活かす日本にはない組み合わせだ。なお、日本統治期に日本式のうなぎ調理が伝わり、調理法が一部影響を受けた側面も指摘されているが、現在の韓国のうなぎ料理は、甘辛いタレや生姜との組み合わせなど、独自の食べ方として定着している。
「土用の丑の日」も、実は仕掛けられた物語だった

日本のうなぎ食文化を語るうえで欠かせないのが「土用の丑の日」だが、この習慣の起源にも興味深い背景がある。江戸時代、夏場に売り上げが落ちるうなぎ屋の相談を受けた学者・平賀源内が、「本日、土用の丑の日」という張り紙を店先に掲げるよう提案し、それが評判になって定着したという説が広く知られている。ただしこの逸話については、後世につくられた創作である可能性も歴史研究者から指摘されており、江戸期以前から「丑の日に『う』のつく食べ物を食べると夏負けしない」という民間伝承自体は存在していたとされる。
つまり日本の「うなぎ=夏の滋養食」という結びつきも、民間伝承と、ある種のキャッチコピーが組み合わさって広まった文化だったことになる。長い暦の思想の上に外食産業が乗って定着した参鶏湯と、民間伝承の上に商魂が乗って定着したうなぎ。どちらも「自然発生した伝統」というより、時代の中で編集され続けてきた文化だという共通点が見えてくる。
旅先で比べてみると見えてくるもの
韓国を訪れた際、参鶏湯とうなぎの両方を食べ比べてみると、単なる「食材の違い」以上のものが見えてくる。参鶏湯は一人前でも丸鶏一羽が基本で、家族や仲間と大きな鍋を囲むというより、一人一鍋で向き合う料理だ。うなぎのヤンニョムグイは逆に取り分けて楽しむ形が一般的で、焼き上がりを待つ時間そのものが食事の一部になっている。
この記事の執筆時点(2026年8月7日)は、暦の上ではちょうど立秋にあたり、2026年の末伏(三伏の最終日)は8月14日にあたる。ちなみに2026年は中伏と末伏の間が20日空く「越伏(ウォルボク)」の年で、例年より暑さが長引く可能性が指摘されている年でもある。暑気払いという行為ひとつ取っても、韓国では今も「暦」が生活の指針として機能している。これは、旅行者が見落としがちな、現地の時間感覚そのものだと言える。
編集部コメント
「暑気払い」という似た目的を持ちながら、日韓の発想がここまで違うことは、実際に調べてみるまで編集部も意識していなかった。うなぎという同じ食材を通しても、「何を守り、何を変えてきたか」という文化の選択が見えてくる。旅先での一皿を選ぶとき、その背景にある発想の違いまで思い出すことで、さらにその国が印象深いものになるのは間違いない。
【基本情報】
本記事は特定の店舗を主題としたものではないため、
代表的な地域情報のみ記載します。
店舗ごとの営業時間・料金等は公式情報をご確認ください。
・参鶏湯:韓国語表記 삼계탕。
ソウル市内を中心に通年提供する専門店が多い
・風川長魚(プンチョンチャンオ):韓国語表記 풍천장어。
主産地は全羅北道・高昌郡(고창군)。禅雲山周辺に専門店が集まる
・2026年三伏日程:初伏7月15日、中伏7月25日、末伏8月14日
(韓国天文研究院・月暦要項に基づく)
・情報確認日:2026年8月7日
取材・文:COCOA


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