
韓国で「走る」が変わっている。ランニングカルチャーとHYROXから見る、新しいウェルネス
韓国で「走る」ことの風景が変わっている。
ソウルでは漢江沿いを走る人が集まり、ランニングクルーが活動し、
行政も市民参加型のランニングプログラムを展開している。
さらに2026年には、ランニングと機能的トレーニングを組み合わせたフィットネスレース「HYROX(ハイロックス)」の大会が仁川で開催された。
走ることは、単なる運動なのだろうか。
仲間と走る。街を走る。自分の記録に挑戦する。身体を整える。
韓国で広がる「走る」という行為を入り口に、
そこから生まれるコミュニティと、いまのウェルネスのあり方を見てみたい。
走る場所が、街の中に増えている
ソウルでランニングを考えると、まず思い浮かぶのが漢江だ。
河川沿いにはランニングやサイクリングのためのルートが整備され、ソウル市もランナー向けの施設やプログラムを展開している。
こうした動きは韓国だけのものではない。日本でも、都市部の公園や河川沿い、ランニングステーションなど、日常の中で走るための環境が広がっている。ランニングが特別なスポーツ施設の中だけで行われるものではなく、仕事や暮らしの延長で楽しむものになっている点は、日韓に共通する変化といえる。
韓国では、こうしたランニング環境がさらに一歩進んでいる。
2026年6月、ソウル・麻浦区に「runport」がグランドオープンした。ランニングステーションとしての機能だけでなく、サウナ、アイスバス、コントラストサウナ、フィットネス、チームトレーニングなどを一体化した、ランナーのための複合型施設だ。漢江のランニングコースへは徒歩30秒という立地で、走ることと、その後のリカバリーまでを一つの体験として設計している。
さらにrunportには「Runport Club」があり、ペーサーと自分に合った距離やペースで走るランニングセッションにも参加できる。「ランニングクルーに入らなくても、似たペースの人と走れる」という仕組みも用意されている。
つまり、韓国で増えているのは単に「走る場所」だけではない。
走る → 汗をかく → 身体を冷やす → 休む → また走る。
そんな一連の時間そのものを楽しむための環境が、都市の中につくられ始めている。
ソウル市が運営する「Runner Station」や市民向けのランニングプログラムと、民間によるRunportのような施設。一方で日本にも、ランニングステーションやスポーツ施設、サウナなど、運動とリカバリーを組み合わせた場所が広がっている。
ランニングは、ただ道路や公園を走るだけのものから、「走る場所」「集まる場所」「身体を整える場所」がつながったウェルネス体験へと広がりつつある。

「ランニングクルー」という、コミュニティとしての走り方
韓国のランニングを語るうえで欠かせないのが「러닝크루(ランニングクルー)」という存在だ。
一人で走るのではなく、SNSなどを通じて仲間をつくり、決まった場所や時間に集まって走る。そこには、運動を目的としながらも、人とつながる「コミュニティ」としての側面がある。
ソウル市が2026年4月から10月まで実施している「7979 서울 러닝크루」も、その一例だ。
毎週木曜日の19時から21時まで、光化門、盤浦、汝矣島の3つのエリアで、レベルに応じたコースを設定。初心者から上級者まで参加でき、ランニングフォームの指導や走る前後のストレッチも行われている。
単に走る場所を提供するだけではなく、参加者同士が同じ時間を共有し、安全に走るためのルールやマナーも含めて運営されている。
ソウル市は、ランナー同士が歩行者に配慮しながら走る「런티켓(ランティケット)」という考え方も掲げている。
「走る人」のためだけの空間をつくるのではなく、街を共有するためのルールやマナーまで含めてランニング環境を整えている点は興味深い。
そして登場した「HYROX」という選択肢
そんなランニングカルチャーの延長線上で注目したいのが、HYROXだ。
HYROXは、1kmのランニングと1つの機能的トレーニングを交互に8回繰り返すフィットネスレース。
種目にはSkiErg、Sled Push、Sled Pull、Burpee Broad Jumps、Rowing、Farmers Carry、Sandbag Lunges、Wall Ballsなどが組み込まれている。
ランニングだけでも、筋力トレーニングだけでもない。
「走る」と「鍛える」をひとつの競技に組み合わせた、ハイブリッド型のフィットネスだ。
参加形式も一つではない。
個人で挑戦するカテゴリーに加え、
2人で参加するDoubles、4人で参加するRelayなどが用意されている。
競技レベルを競うだけではなく、
それぞれのカテゴリーで自分なりの目標に挑戦できる構造になっていることも特徴だ。
日韓でも広がるHYROX。仁川と千葉で見えたもの

HYROXは韓国だけで広がっているわけではない。
2026年5月15日から17日には、韓国・仁川のSongdo Convensiaで「HYROX Incheon 2026」が開催された。さらに日本でも、8月6日から9日にかけて「HYROX Chiba 2026」が幕張メッセで開催された。
いずれも、1kmのランニングと機能的トレーニングを組み合わせたHYROX独自のフォーマットで競われ、SinglesだけでなくDoublesやRelayなど、複数の参加スタイルが用意されている。
2026年のIncheon大会については、外部の大会結果データで13,576人の参加者が記録されており、韓国での大会規模の拡大が確認できる。
一方、日本でもChiba大会が開催され、日韓それぞれでHYROXに挑戦する機会が生まれている。
異なる国で同じフォーマットの競技に参加できることも、HYROXの特徴の一つだ。
ランニングをベースにしながら、筋力や持久力など複数の身体能力を使い、自分自身の記録に挑戦する。
そこには、国や言語を越えて共有できる「身体を動かす体験」がある。


「健康のため」から、その先へ。身体を整える時間
ランニングやHYROXをウェルネスという文脈で見ると、
単純に「健康になるための運動」とだけ捉えることはできない。
走る場所を選び、仲間と走り、記録に挑戦する。
そして走った後には、身体を休ませ、回復させる。
ソウルでは、漢江沿いのランニング環境に加え、Runner StationやRunportのように、
ランニングとリカバリーを組み合わせた施設も登場している。
Runportではランニングだけでなく、
サウナやアイスバス、フィットネスなどを一つの施設で体験できる。
つまり、「走る」ことの周辺に、
集まる・鍛える・休む・整えるという時間がつながり始めている。
これは日本でも同じだ。
ランニングステーション、ジム、サウナ、ヨガ、ピラティスなど、運動とリカバリーを組み合わせて身体を整える選択肢は増えている。
ウェルネスという言葉が広がるなかで、
運動は「健康のために行うもの」だけではなく、
自分の時間をつくり、人とつながり、身体と向き合うための時間にもなっている。ランニングクルーというコミュニティも、HYROXという競技も、そして走った後に身体を整える場所も、その一つの流れの中にある。
編集コメント
今回、HYROXをきっかけに見えてきたのは、一つの競技だけではない。
漢江を走る人、仲間と走る人、競技に挑戦する人、そして走った後にサウナやアイスバスで身体を整える人。
「走る」というシンプルな行為の周囲に広がる、コミュニティ、競技、リカバリーというさまざまな要素。
日本でも同じように、ランニングを楽しむ場所やコミュニティ、身体を整えるための選択肢が広がる現在。
日韓で形や広がり方は異なりながらも、運動を「健康のためだけのもの」ではなく、自分自身の時間や人とのつながりを楽しむものとして捉える動き。
次に韓国を訪れるとき、観光するだけでなく、街を走ってみる。
いつもの韓国旅行とは少し違った、街の表情との出会いを体験してみるのもいいだろう。
ソウル特別市
写真提供:HYROX APAC
取材・文:COCOA / Shiozaki


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