韓国語学習を続けられる人と、やめてしまう人の差(後編)

文法はわかる、単語も覚えた。それなのに、会話になると聞き取れない、話しても伝わらない。前編で触れた「差」のもう一つの正体は、耳と口にある。ただし、発音の壁を越えた先で本当に学習者を分けているのは、指導を受けているかどうかだけではない。韓国語の先に何を見ているかという、もっと根本的な違いだ。

聞き取れるのに、伝わらない理由

文法や単語をある程度覚えた段階で訪れるのが、発音のつまずきだ。韓国語には、日本語にない音の仕組みがいくつも存在する。同じ「か」に近い音でも、息の出し方や喉の使い方によって別の子音として区別される場面や、日本語話者にとって聞き分けが難しい母音の組み合わせもある。

これらは、文法のように規則を覚えれば解決するものではない。耳で聞き分け、口の使い方を体に覚え込ませる感覚的な訓練が必要になる。文法は理解できているのに会話が成立しないという状態は、能力の差ではなく、この感覚的な部分への向き合い方の差から生まれている。

自己流の発音は、あとから直しにくい

独学で学習を進めていると、正しい発音を確認する機会がないまま、自己流の発音のまま覚えてしまうことがある。最初は通じているつもりでも、実際には別の音として認識されていたというケースは珍しくない。

厄介なのは、一度体に染み込んだ発音の癖は、あとから修正するほうが、最初から正しく学ぶよりも時間がかかるという点だ。これには筆者も過去に悩まされた経験がある。自分の発音がどこでずれているかを客観的に指摘してもらう機会は、独学では得にくい。専門家からその場で確認してもらいながら学ぶ環境の有無が、上達の速度を左右する。

ただし、発音を正しく学べる環境が整っていれば、それだけで学習が続くわけではない。第二言語習得の研究では、学習を支える動機づけには大きく二種類あるとされている。一つは、試験や仕事のためといった、言語そのものとは別の目的を達成する手段として学ぶ「道具的な動機づけ」。もう一つは、その言語が話されている文化やコミュニティに関わりたいという思いから学ぶ「統合的な動機づけ」だ。研究上は、後者の方が習得の助けになりやすいとされている。

これは、韓国語学習にもそのまま当てはまる。「話せるようになりたい」という漠然とした目標だけでは、伸び悩みの時期を越えにくい。一方で、「あの人と韓国語で話したい」「あの場所で、その土地の言葉で会話をしてみたい」という具体的な相手や場面を思い描けている人は、学習が停滞しても戻ってくる力が強い。指導者やスクールを選ぶ意味も、単に発音を直してもらうことだけでなく、自分がどこに向かっているかを一緒に言語化してくれる存在を持てるかどうかにある。

続けた先に残るもの

前編で触れた「続けられる人とやめてしまう人の差」は、文法の近さをどう捉えるか、発音というもう一つのつまずきにどう向き合うか、そして韓国語の先に何を見ているか。この三つの積み重ねによって生まれている。

その先に何があるのかは、決して想像の話だけではない。韓国エンタメの分野で長年MCや通訳を務める古家正亨さんは、大学卒業後のカナダ留学中に触れたK-POPをきっかけに韓国語への関心を深め、韓国の高麗大学への留学を経て言語を体系的に身につけた。帰国後、韓流ブームが本格化する以前の2000年に日本初のK-POP番組を立ち上げ、以降350公演を超える司会・通訳を担い、2009年には韓国政府から日本人として初めてK-POP普及への貢献を認められている。

一方、字幕監修者・翻訳実務士の花岡理恵さんは、韓流スターのパク・ヨンハさんへの思いをきっかけに44歳で韓国語学習を開始した。専業主婦として約25年を過ごした後のスタートだったが、韓国語学校での学習を重ね、映像翻訳の専門スクーリングを修了。51歳で字幕監修者としてのキャリアを歩み始めた。

学び始めた年齢も、きっかけとなった対象も、二人はまったく異なる。それでも共通しているのは、独学だけで終わらせず、留学先の大学や専門スクールという学びの場を選び取ったという点だ。推しに会いたい、その言葉を字幕なしで理解したい、いつかその世界を仕事にしたい。こうした思いは、決して夢のままで終わるものではない。学び始めた年齢に関わらず、目的を持って専門的な学びの場を積み重ねた先には、趣味では終わらない選択肢が現実として存在している。

短期で韓国語を学べる、留学という選択肢

学び続けた先に、現地に身を置いて学ぶという選択肢も存在する。数週間単位の短期プログラムであれば、仕事や学業を続けながらでも挑戦しやすい。主な大学付属の語学機関を、公式サイトのリンクとともにまとめる。

延世大学校 韓国語学堂(연세대학교 한국어학당)
ソウル・西大門区。正規課程に加え、夏季には3週間の単期課程を実施。
公式サイトはこちら

高麗大学校 韓国語センター(고려대학교 한국어센터)
1986年設立。正規課程のほか、単期集中課程を設けている。
公式サイトはこちら

梨花女子大学校 言語教育院(이화여자대학교 언어교육원)
1988年から外国人向け韓国語課程を開始。夏季を中心に3週間の単期課程を複数回実施。
公式サイトはこちら

いずれも日程・費用・募集要項は学期ごとに更新されるため、参加を検討する際は必ず各公式サイトで最新情報をご確認いただきたい。

学び方は独学でも、現地の教室でも、正解は一つではない。ただ、実際に韓国語が使われている環境に身を置くことで、教材だけでは掴みきれない「生きた言葉」の感覚に触れられることは、これまで見てきた実例からも共通している。

編集コメント

発音のつまずきは、才能や耳の良し悪しではなく、正しく学ぶ機会を持てているかどうかに左右される。ただ、それ以上に学習の継続を左右していたのは、韓国語の先に何を見ているかという目的の持ち方だった。前編・後編を通じて見えてきたのは、続けられるかどうかは環境だけでなく、学ぶ理由をどれだけ具体的に描けているかにも表れるという視点だ。古家さんや花岡さんの歩みが示すように、その先には夢で終わらない現実の選択肢が広がっている。

【出典・情報提供表記】

・第二言語習得研究における動機づけ理論(統合的モチベーション/道具的モチベーション、Gardner & Lambertの枠組みに基づく一般的知見)
日本経済新聞ビジネス「韓ドラのファン、44歳から韓国語を学び始めて字幕監修者に」

編集・文:COCOA編集部

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